愛玩動物飼養管理士という資格

2018年9月3日、イギリス・スコットランドの路上で、痩せ衰え、ほとんど動くことができない一匹のスタッフォードシャー・ブル・テリアがバスゲイト警察によって保護されました。すぐに動物病院へ搬送されたものの、衰弱が激しい上、検査の結果多くの傷、さらには未治療でかなり進行した癌が見つかり、既に手の施しようもない状態であることから、翌日、安楽死の処置が施されました。

逮捕されたのは、ウィリアム・ギリースという41歳の男性で、10月22日に行われた裁判では、飼い犬に餌や水を与えなかったこと、癌で治療が必要な状態であるにもかかわらず治療させなかったことを認めました。

とても残酷で、ひどく心が痛む事件です。しかし、これは遠い外国だけでの話ではありません。日本でも毎日のように動物虐待に関する報道を耳にします。実際、警視庁が公表している「 生活経済事犯の検挙状況等について 」による動物虐待に関する検挙数・人員は年々増加しています。

<動物虐待事犯の検挙事件数の推移>

 

平成

22年

平成

23年

平成

24年

平成

25年

平成

26年

平成

27年

平成

28年

平成

29年

検挙事件数(単位:事件) 33 29 29 36 48 56 62 68
検挙人員(単位:人) 4 40 29 40 52 63 66 76

データ:「生活経済事犯の検挙状況等について」(警察庁生活安全 局生活経済対策管理官)

警視庁が公表している数値だけ見ると少なく感じますが、これは氷山の一角であり、実際の動物虐待件数はさらに多いはずです。

また、殺す、傷つけるなどの直接的な行為だけが虐待となるわけではありません。過度にに擬人化して甘やかす行為、かわいさあまって食べ物を与えすぎ太らせてしまうなど、ペットと暮らす当たり前の日常でありがちな行為の中にも虐待は隠れています。

なぜ「動物虐待」はいけないことなのでしょうか?その答えの中の一つに「動物虐待はやがてヒトに対して危害を加える兆候であるから」という意見があります。確かにそのとおりです。しかし、これは「動物虐待をしてはいけない」本来の理由ではありません。動物虐待の被害者は、あくまで動物です。このように、何でも主体をヒトに置き換え、ヒトの権利に結びつけて考えてしまう――その根底に、「種差別」の心理が働いてはいないでしょうか。

最近言われるようになった「種差別」とは、いわゆる女性差別、人種差別のような差別感情の一つであり、ヒト以外の生物に対する差別のことです。

地球は、全ての生物に対して差別は行いません。地球は全ての生物たちのものです。そして、全ての生物に対して与えられるたった一つの命、これはかけがえのないものであり、全ての生物がその命・生を謳歌する権利をもっています。

しかし、現実はこのような理想とはほど遠いものです。

身勝手な理由で保健所に連れて行かれ、殺される動物たち――化粧品やハンドバッグ、コートなど、ヒトが綺麗に着飾るためだけにその命を使われる動物たち――ヒトの居住区拡大のために居場所や食物を失う動物たち……。

みんな、これらのことを聞くとき、心のどこかに「仕方がない」という思いがありはしないでしょうか。


動物はヒトのために生まれ、生きているのではありません。

しかし、綺麗事だけで「動物愛護」を語るのは、あまりに身勝手です。

私たちは肉を食べます。また、私たちの日用品には多くの革製品が使用されています。さらに、私たちの命を支える医療、その発展のために動物実験が行われているのも事実です。

そして、直接的に動物の命に関わる仕事をする人たちがいて、私たちの生活があります。

それを考えるとき、動物愛護――動物とヒトとの関係は、非常に難しいものとなります。

ヒトは安定して肉や卵、乳製品を手に入れるため、家畜動物を改良してきました。また、医療研究・薬品開発のためにも多くの動物たちを利用してきました。それらの現実に目をつむり、ただかわいそうだからという理由だけで「動物愛護」を唱えるのは、ずるいと思います。

私たちは、まず「知る」必要があります。私たちの食卓に並ぶ肉や卵、そして私たちの服や靴、鞄に使われている毛皮や皮、それらがどのような過程をたどって私たちの元に届けられるのか――それらを知った上で、それぞれの「動物愛護」に関する考え方を持ち、意見を述べるべきだと思います。

実際、私自身何が正しいのか、全くわかっていません。

動物を殺さなくてもよい世の中になればいいと思いながらも、肉や魚を食べています。生活の中には選ぶ・選ばないを別にして革製品があふれています。そして、私が使用する化粧品、服用する薬の向こうにも、犠牲になった多くの動物たちがいるのでしょう。

私は、まだまだ勉強し、考えている最中です――自分なりの答えを。

私がこのように動物愛護について深く考えるきっかけとなったのが、愛玩動物飼養管理士という資格を知り、その取得のために勉強したことでした。


動物が好きだけど、動物に関係する仕事は限定されている。それでも、何か動物に関することを考えていきたい、そうして見つけたのが、「愛玩動物飼養管理士」という資格でした。

メンバーズカード表
メンバーズカード裏

愛玩動物飼養管理士(英語名:Pet Care Adviser 略称PCA)は、公益社団法人日本愛玩動物協会(監督官庁:内閣府)によって認定される民間資格で、「動物の愛護及び管理に関する法律」の趣旨に基づき、愛玩動物の愛護及び適正飼養管理の普及啓発活動などを行うために必要な知識・技能を、協会の通信教育により体系的に修め、試験に合格することで取得できる資格です。

どういう資格かというと、動物(ペット)の習性や正しい飼い方、動物関係法令(動物愛護管理法、ペットフード安全法等)、動物愛護の精神などを、多くの人に広めること――つまり、獣医師や動物看護師、訓練士のように、就職に直結する資格ではありません。

ただ、この資格の最大の利点は、この資格を持っているだけで「動物取扱責任者」となれることでしょう。

動物の愛護及び管理に関する法律」第十条及び第二十二条では、動物の取扱業(動物の販売、保管、貸出し、訓練、展示(動物との触れ合いの機会の提供を含む。))を営もうとする者は、事業所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けることを義付け、要件の一つとして、各事業所ごとに「動物取扱責任者」を1名以上配置することとしています。
動物取扱責任者の要件は、「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則」第三条第五項に、次に掲げる要件のいずれかに該当する者であることが規定されています。
(イ)営もうとする第一種動物取扱業の種別ごとに別表下欄に定める種別に係る半年間以上の実務経験があること。
(ロ)営もうとする第一種動物取扱業の種別に係る知識及び技術について一年間以上教育する学校その他の教育機関を卒業していること。
(ハ)公平性及び専門性を持った団体が行う客観的な試験によって、営もうとする第一種動物取扱業の種別に係る知識及び技術を習得していることの証明を得ていること。

愛玩動物飼養管理士は、(ハ)の要件に該当しており、動物関係の職務経験が無く、また動物関係の学校を卒業していなくても、この資格を持っているだけで動物取扱責任者となることができます。

と、まあ、動物関係の仕事をする人にはとても役立つ資格ですが、正直、私のように動物関係の仕事に就いていない者には、持っていても使いようのない資格です。

しかし、全く役に立たない資格かというと、そうではありません。本当に動物愛護に関する活動がしたい人は、日本愛玩動物協会が各都道府県に設置している支所に登録をすることで(強制ではありません)、各支所が行う動物愛護イベント等に参加し、動物愛護に関する活動を行うことができます。

そして、何よりこの資格取得のための勉強はとても有益なものでした。

勉強をはじめたきっかけは、ただ「動物に役立つことがしたい・考えたい」ということでしたが、勉強する過程で、人が動物と暮らすようになった歴史、動物愛護に関する考え方とその歴史、法律、いろいろな動物の習性や体、病気のこと、飼養方法等、広く詳しく勉強することができました。特に、かつて人々がどのように動物たちと接してきたのか、また、その中で唱えられるようになった「動物の権利」等、全く知らなかったことが多く、また現在も行われている改善すべき動物の管理(実験動物、家畜動物の取扱等)を学び、自分の無知を知り、本当に多くのことを考えさせられました。

<1級教本>
<2級教本>

資格取得自体は、そう難しいものではありません。

日本愛玩動物協会に受講の申し込みし、送付された教材で勉強します。そして、年一回開催されるスクーリングに出席し、その後課題を提出、そして認定試験(全国一斉試験)を受けることとなります。

スクーリングへの参加は、男性、女性、そして様々な年齢の方がおられ、特に話をして仲良くなるわけではなくても、同じ思いを持っている人たちがいるということが嬉しく感じられ、少し心強くも感じられます。

ただ、ある程度費用はかかります。

一級の受講要件は二級を持っていることなので、まずは二級の資格をとらなければなりません。

  1級 2級
受講資格 2級愛玩動物飼養管理士の資格を有する者(認定登録された者) 満15歳以上の者(該当年度の4月1日時点)
申込書受付期間 春期申込:例年 2から4月
夏期申込:例年 6月から8月
春期申込:例年 2から4月
夏期申込:例年 6月から8月
受講受験料 32,000円 30,000円
認定登録料 20,000円 5,000円
認定試験 春期申込:11月第4日曜日夏期申込:2月第4日曜日 春期申込:11月第4日曜日夏期申込:2月第4日曜日

この他にも、地方在住の方は、スクーリング会場、試験会場への交通費も必要となります。

※上の表は、平成30年12月現在のものですので、愛玩動物飼養管理士の資格を本気で考えておられる方は、公益社団法人日本愛玩動物協会のホームページをご覧ください。

動物愛護に関する考え方は、いわゆる人権などのように世界で共通認識されるような公的な基準は無いに等しいのが現状です。国によって考え方、取組は大きく異なるし、同じ国でも人によってその考え方は大きく異なります。

しかし、いずれは動物愛護に関する概念を世界で共通認識し、全ての生物がそれぞれの特性に従って自由に生きる権利を尊重する世界というものを考えていかなくてはならないでしょう。実際、その取組は少しずつですが始まっています。

とりとめのない記事となってしまいましたが、私にとって動物愛護について深く考えるきっかけとなったのが「愛玩動物飼養管理士」という資格取得でした。おそらく、これ以外にも「きっかけ」はたくさんあると思います。それは、他の資格、本、インターネットの記事、動物に関する仕事をする方との出会い――いろいろな「きっかけ」があるでしょう。その「きっかけ」を大切にし、動物愛護について考えていただければ、幸いです。

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