眞神原という地名~万葉集 巻第八 冬雑歌~

万葉集』には4500首以上の和歌が収められており、多くの生物が登場しています。人々にとって身近な存在であった犬や鹿、猪、馬、牛、鳥、狐、兎、ムササビ、猿、熊、鯨、さらに、日本には生息していない虎までもが登場していますが、狼(ニホンオオカミ)が登場する和歌は一首もありません

あえて言えば、「眞神原」という地名で登場する、とはいえますが、このブログの記事「眞神原(まかみがはら)という地名」で紹介したとおり、その地名が本当に狼に由来しているのかは不明で、「眞神原」を詩に詠んだ人が狼のことを意識していたのかどうかはわかりません。

それを踏まえた上で、『万葉集』の中で「眞神原」が登場する和歌を紹介します。

『万葉集』には、「眞神原」を詠んだ和歌が、「巻第二 挽歌」、「巻第八 冬雑歌」、「巻第十三 相聞歌」に、少なくとも3首見ることができます。その中で、今回ご紹介するのは、「巻第八 冬雑歌」に収められている和歌です。

万葉集第八冬雑歌に収められたこの和歌は、飛鳥時代の女官、舎人娘子(とねりのおとめ、生没年不詳、伝未詳)が詠んだ雪の歌です。

ちなみに、万葉集の和歌は、「雑歌(ぞうか)」(宴や旅行での歌)、「相聞歌(そうもんか)」(男女の恋の歌)、「挽歌(ばんか)」(人の死に関する歌)の三つのジャンルに分かれており、この和歌は、冬の「雑歌」に分類されています。

 

万葉集 巻第八 冬雑歌

舎人娘子とねりのをとめが雪の歌一首

古文

一六三六
大口おほくち真神まかみはらに降る雪はいたくな降りそ家もあらなくに

現代文

一六三六
真神の原に降る雪よ、そんなにひどく降らないでおくれ。このあたりに我が家があるわけでもないのに。

参考

  • 「大口の」は眞神の枕詞。眞神(狼)の口が大きい意。ただし、「大口の」を枕詞ととらず、「大口眞神原」がそもそもの地名だったという見方もある。詳細はこのブログ記事「眞神原という地名」に記載。
  • 白鳳期の歌。
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